テニアン島に原爆を運んだ軍艦を潜水艦が撃沈!艦長が軍法会議にー後編

この記事は「テニアン島に原爆を運んだ軍艦を潜水艦が撃沈!艦長が軍法会議に」の後編になります。
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テニアン島に原爆を運んだ軍艦を潜水艦が撃沈ー後編

アメリカ海軍のスケープゴートにされた艦長

このインディアナポリス号の悲劇を振り返ると、いくつもの疑問が浮かび上がってきます。

単艦での行動、救難信号の無視、寄港地への確認不足
このどれをとっても海軍の失態を免れることはできません。

ところがアメリカ海軍はこの失態をインディアナポリス号の艦長一人に押し付けようとしたのです。
映画ではニコラス・ケイジが艦長チャールズ・マクベイを演じていましたが、マクベイ艦長は多大な犠牲を出したことで軍法会議にかけられることになったのです。

アメリカ海軍はこの第二次大戦中に700隻の艦艇を失っていますが、通常の戦闘において艦長一人が軍法会議にかけられたのはこのインディアナポリス号が初めてのケースでした。

これにはそうせざるを得ない軍の背景がありました。
この大戦でアメリカはドイツに勝利し、続いて日本に勝利したことで全米中が湧きたっていました。
そんな中で海軍の大失態をさらけだすわけにはいかなかったわけです。

しかしそんな海軍の面子の為、後にもう一つの悲劇が生まれることにつながったのですが、その話は後にしまして、軍法会議においてマクベイ大佐の何が争点になったのか。

それは潜水艦の攻撃を予測してのジグザグ航行を怠ったこと。
攻撃後の退艦命令が遅すぎたこと。

この2点について争われました。

日本軍潜水艦艦長の召喚

しかし退艦命令については、インディアナポリス号が雷撃されてから僅か12分後に沈んでしまったことで、退艦命令を出す暇もなかったことに検事側が気づいたことで、争点はジグザグ航行の一点に絞られました。

ここで驚くべきことにアメリカはインディアナポリス号を雷撃した潜水艦伊58の艦長、橋本以行(はしもともちつら)を法廷に召喚したのです。
さすがリベラルな思想の国アメリカです。これは立場が逆なら絶対にあり得ないことです。

検事側が橋本を召喚したのはマクベイ艦長のジグザグ航行不履行の裏付けを期待したからでしたが、その意に反し予備審問で橋本は同じ武人としてマクベイ艦長を擁護する姿勢をとります。

予備審問で検察側から「インディアナポリスが対潜航法であるジグザグ航行をしていたら雷撃は防げたか?」の質問に対し橋本は「位置的に見てジグザグ航行を取っていたとしても雷撃を免れることは不可避であった」と陳述したのです。

これは米海軍にとっての思惑とは違う回答であったことから、本審問ではこの点に触れることなく終わってしまい、結局橋本中佐の努力も虚しくマクベイ大佐は有罪判決を受けてしまったのです。

そしてこのことが引き金となってもう一つの悲劇が生まれます。

有罪判決を受けたことでインディアナポリス号搭乗員の家族から「殺人鬼」などの酷い言葉で罵倒され続けて耐えきれなくなったマクベイ大佐は1968年に拳銃で自ら命を絶ったのでした。

マクベイ大佐の名誉回復

それから更に28年後のこと、ある少年がインディアナポリス号沈没に興味を持ち、独自で調査を行った結果、マクベイ大佐への判決は不当であることを知った少年は、大佐の無実を訴えつづけ、ついにマクベイ大佐の名誉を挽回することに成功したのです。

マクベイ大佐の名誉回復には、この少年だけではなく生き残った乗員300人も一緒になって議会に働きかけていました。
そしてその決定打になったのはインディアナポリス号を雷撃で仕留めた潜水艦伊58の元艦長、橋本氏がアメリカ議会に手紙を送ったことでした。

これにより遂にアメリカ議会は重い腰を上げ、マクベイ大佐は死後やっと無実を勝ち取ったのでした。

その伏線となったのが少年の調査により、当時のフィリピン海域では日本の潜水艦が活発に動き回っていることを海軍は把握していたことが分かったことでした。
知っていながらそれをマクベイ艦長には知らせず、しかも単艦で行軍させたことは海軍の明らかな失態です。
議会もそこまで調べられては無視することはできなかったのでしょう。

こうしてマクベイ大佐の無実は証明されたのですが、この話というか出来事を通じて感じるのはアメリカという国はためらいなく原爆を落とすような残酷さがある反面、実にリベラルでフェアな精神も持ち合わせた国でもあることを実感させられました。

普通、自国の艦を沈めた敵国潜水艦の艦長を召喚するなどあり得ないことで、惨殺されても不思議ではないくらいです。
現に日本でも東京を焼け野原にして一晩で10万人もの犠牲者を発生させたB29の一機が撃墜された時、その搭乗員が惨殺されるという事件も起きているからです。

またこのインディアナポリス号の惨劇を「原爆を落とした報いだ」と論ずる人もいますが、艦の搭乗員は艦長以下誰も積み荷の正体を知らなかったのですから、それは筋違いというものです。

インディアナポリス号の悲劇の話はこれで以上になりますが、このような不幸な出来事が起きない世の中が永遠に続いてほしいものです。

では最後までご覧いただきありがとうございました。

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